2015年3月7日土曜日

殺意

本のタイトルを思い出せなくて、前に書いていたブログを読んだ。
どうでもいい日常を書いているが、時々興味の湧く内容に目がとまる。

『殺意について』 こんな事を書いている。



ピンク映画の結末が仕上がらず、『殺意』について考えていた。
なので今日、思い切って釣りに行った。
たった一人になって考えてみようと出かけたのだが、物語のことなどまったく考えもしなかった。

ただただ、ぼーっと海と竿先を見つめること数時間、一匹だけ手のひらサイズのボラを上げただけで後はいっこうに音沙汰なかった。
もんもんとしていた。

夜になって兄からこんな話を聞いた。宮本輝のエッセイだった。
宮本輝が「蛍川」で芥川賞を獲ったばかりの頃、彼は結核で入院した。
賞を獲ったばかりで次々と仕事が舞い込む予感のある頃だった。
だが、彼は入院を余儀なくされ、1年間ほど仕事を断わることを指示された。

そんな時、病室のベッドに一匹の蟻が現れた。
病床の宮本はその蟻の前にエサを与えた。
翌日にも来たのでその日も食事の残りを与えてやった。
するとまた、次の日にも蟻は群れることなく、たった一匹で現れた。
その日も宮本輝は米粒を与えて帰してやった。

そうして来る日も来る日も蟻は一匹で現れて、宮本輝はエサを与え続けたのだと言う。
やがて宮本が結核を完治し退院を許される時がやってきた。
その日も蟻は病床に来たという。
彼は迷った。迷ったあげく、彼は親指でその蟻を押し潰してしまった。

エッセイの中では、あの日、どうして自分は蟻を殺してしまったのかわからない、と書いている。
凡人の僕にはわからないが、『殺意』について考えていると言ったら、兄はそんな話をして聞かせてくれた……。